結晶作成 の実験




  1. 既存の結晶(試薬・標本等)の観察:


  試薬中で、単結晶に近いのは チオ硫酸ナトリウム(ハイポ) Na2S2O3・5H2O(単斜晶、ややゆがんだ直方体) くらいで、他は見ても結晶系すら分からない。 鉄ミョウバン FeNH4(SO4)2・12H2O は、結晶では薄紫色。(溶液は Fe(V)の 褐色)
  金属や鉱物もきれいに結晶しているものが多い。 ビスマスは作ったもので、歪んだ立方体が重なったような形になっている。 蛍石は ミョウバンと似ている。

  


  §  結晶系 と 結晶の形:

     @ 立方晶(等軸晶) a=b=c、α=β=γ=90度 ・・・・ 食塩、みょうばん、クロムミョウバン、鉄ミョウバン、硫酸ニッケル(無水)、純鉄(体心立方 bcc)、金属ニッケル(面心立方 fcc); 蛍石、岩塩、黄鉄鉱、柘榴石、 結晶の形(*):立方体、正八面体、十二面体
     A 正方晶      a=b≠c、 α=β=γ=90度 ・・・・ 硫酸ニッケル(6水塩); ジルコン  結晶の形:八面体、四角柱状で横断面が正方形
     B 斜方晶(直方晶) a≠b≠c、α=β=γ=90度 ・・・・ 硝酸カリウム、クエン酸、斜方硫黄; 黄玉、かんらん石、紅柱石、 結晶の形:四角柱状、二組の四側面に接続する錘面で構成するバイピラミッド型
     C 単斜晶       β>90度、 α=γ=90度  ・・・・ 硼砂、チオ硫酸ナトリウム、モール塩、硫酸鉄(U)(緑礬)、赤血塩、黄血塩、塩化コバルト(6水塩)、単斜硫黄; 正長石、 結晶の形:柱状および卓面
     D 三斜晶       α≠β≠γ            ・・・・・ 硫酸銅(胆礬); アマゾナイト、バラ輝石、トルコ石、 結晶の形:側面や裏面に傾きがある柱状で卓面を持ったもの
     E 六方晶    a=b≠c、 α=β=90度、γ=120度   ・・・・・ 亜鉛、金属コバルト(六方稠密 hcp); 石英、エメラルド、ベリル、電気石、コランダム、 結晶の形:六角柱状
     F 三方晶(菱面体)    a=b=c、 α、β、γ≠90度   ・・・・・ 塩化コバルト(無水); 菱鉄鉱、菱亜鉛鉱
  結晶系は、これらの 7つに大別される。

  これに加えて、原子レベルの単位格子は、原子・分子配列のパターンに応じて単純格子、面心格子、体心格子、底心格子の 4種類に分類される。
  * どのような結晶の形になるかは、各方向((110)、(111)など)への成長速度による。

   (参考)  結晶系と単位格子、 結晶系とその形




  2. 温度差法による作成:


  水溶液中で温度による溶解度の変化が大きい溶質は、溶液の冷却と共に結晶を析出する。 ただし、一般に析出速度が大きいので、微細な核を起点に成長し、どうしても多結晶や粉末になりやすい。

  ● 硝酸カリウム KNO3: 30gを量り取り、熱水に溶かして65mlとする。 シャーレに入れて空冷。 急成長のため細長い結晶ができるが、もろいので種結晶に使うことはできなかった。
  ● 臭化カリウム KBr: 臭素酸カリウム作成時の飽和溶液(臭化カリウムがわずかに過飽和)から空冷して、一晩おいて晶出したもの。 もろく割れやすい。
  ● 硫酸銅 CuSO4・5H2Oでは、種結晶を吊るしても、溶液の温度が下がるのが早く、急成長し過ぎて多結晶になった。

  ● 硼砂(四ホウ酸ナトリウム・10水和物) Na2B4O7・10H2O: 9gを 100mlの湯に溶かし空冷して 種結晶を作り、その中でも形の良い物を選んで φ0.3mm程度のテグスで縛って角棒から吊るしたものを作っておく。 11gを100mlの湯に溶かして、ろ過し、40度くらいになったら、作っておいた 種結晶を吊るして ラップをかけ、12時間ほど室温で放置すると、2センチほどの多結晶ができる。
   (硼砂の溶解度: 4.7g/100ml(20℃)、7.2g(30℃)、11.2g(40℃)、30.3g(60℃))
  保存には、風解性なので、無色マニキュア(ダイソー)を塗っておく。

  ● クエン酸・一水和物 C6H8O7・H2O (CH2COOH‐C(OH)COOH‐CH2COOH・H2O、3塩基オキシ酸): 45gを湯25mlに溶かして冷やし 種結晶を作っておく。 110gに湯50mlを加えてさらに加温して溶かし、室温まで冷えたら 種結晶を吊るして(吸湿性なので)ラップをかける。 過飽和度が大きく、しかもゆっくり結晶成長するので、常温で5〜6日くらい置くと、2−3センチの単結晶が大きく成長する。(右2つ) (最初間違えて無水物で行ない、多すぎて多結晶になった。(左))
   (クエン酸・一水塩の溶解度: 163g/100ml水溶液(20℃)、 180g(30℃)、 219g(40℃)、 244g(50℃)、 277g(60℃)、 320g(70℃)、 372g(80℃))
  保存には、潮解性ということでシリカゲルを一緒に入れておくと 逆に風解するので注意。 無水物を一緒に密封容器に入れておく。


  



  3. 自然蒸発法による作成:


  大きくてきれいな結晶を作るには、やはり時間をかけて ゆっくり成長させる、自然蒸発法がベストと思われる。
  その中でも、透明で形の良い結晶を複数同時に作る方法として、「ころがし法」がある。・・・ミョウバンなど  また、種結晶を吊るして大きく成長させる方法もよく用いられる。

  ● カリ・ミョウバン KAl(SO4)2・12H2O: 最も定番の結晶づくりである。 焼きミョウバンは 溶けにくいので、種結晶も兼ねて 結晶ミョウバンを用いる。 結晶カリ・ミョウバン 138gを量り、80℃程度の湯 300ml を入れて溶かし放冷し、結晶を出し尽くしてから 溶液をシャーレに入れ、種結晶の結晶ミョウバンを10粒くらい入れて放置する。 あるいは、ペットボトルなどに結晶ミョウバンと水を入れ、何度もよく振って 飽和溶液を作っておく。
  その後は、1日おきに、砂のように出た微細結晶を ゴムベラで一方に掃き寄せ、何もない所に置き直す。 この際、8面体の面積が最も小さい面を下にして 置き直す。 時々液を補充する。 結晶が大きくなったら より深めの容器で行なう。 液は一週間おきくらいで交換する(前の液をろ過)。

  * ミョウバンもクエン酸と同様に大きく過飽和になるので、温度が下がったばかりの溶液に吊るすと一日で1cmくらいに成長するが、透明度は落ちる。

  ● クロムミョウバン入り紫ミョウバン: クロム・カリミョウバン KCr(SO4)2・12H2O、あるいは クロム・アンモニウムミョウバン NH4Cr(SO4)2・12H2O を 6〜10g 、結晶カリミョウバン 75gを量り取り、温純水300mlを加えてよく溶かし、冷えて結晶を出し切ってから、溶液をシャーレに入れて 種結晶(カリミョウバンでも クロムミョウバンでも どちらでも良い)を入れて 放置・管理する。 成長速度はカリミョウバンよりも遅い。 溶解はなるべく低温で行なう。(溶液の色は青〜紫色) もし溶解時に40℃以上に加熱すると、硫酸クロムが非晶質の「緑色塩」になって溶液が緑色になり、色が付かないか、結晶成長が著しく遅くなるので注意。
  1〜2週間ぐらい成長したら、一部は 無色のカリ・ミョウバンの液に入れ、内側は紫で外側を無色透明のミョウバンを作ることもできる。

  ● 立方体ミョウバン: ミョウバン液に硼砂を加えて 結晶ミョウバンの粒の上に成長させると、硼砂が「媒晶体」となって、(111)方向に最も速く成長して 次第に立方体になっていく。(通常のミョウバンは(100)方向が速いので 正8面体になる。)
  結晶カリミョウバン 22gに 100mlの湯を加えて溶かし、これに 硼砂 8gを入れて さらに加熱して、一時的に生じた水酸化アルミニウムの沈殿を完全に溶かす。
  シャーレに溶液を入れ、結晶カリミョウバンの粒を5〜6個入れて種結晶とする。 四角形の面が現れたら、この面を下にして 成長させる。
  溶液中のミョウバンの量は減り 硼砂は変わらないので、3日おきに 新規の液に交換する。



    


  ● 硫酸銅 CuSO4・5H2O: これも結晶づくりの定番で、比較的大きな結晶が得られる。 5水塩の結晶硫酸銅 150gを量り、純水と共に加熱して溶かして300mlの溶液とする。 これに、2〜3mlの50%硫酸を加えて 長期間放置しても沈殿が生じないように液を安定化する。 液を一晩置くと、結晶がいくらかできるので、ろ過して、その中から種結晶を集める。 大きさではなく形の良いものを選んで 机に貼ったテープに固定し、φ0.25〜φ0.3mmのテグス糸に結び目を作って 引っ張って、種結晶を結ぶ。(硫酸銅は ひし形なので 非常に縛りにくい。)
  これを300ccのコニカル・ビーカーに入ったろ液に吊るし、長時間、ほこりがかからず、なるべく温度が一定の場所に放置して、ゆっくり結晶を成長させる。 3、4日おき位に 結晶を確認し、もし側面などに結晶がつき始めたら 指の腹や爪で こそぎ落とす。(それほど毒性はない) 一週間に一度くらい、液を補充する。 (時間の都合で1か月で止めにしたが、もっと続ければ硫酸銅はいくらでも大きくなる。)
  風解性があるので、無色マニキュア(ダイソー)を塗っておいた。

  ● モール塩 Fe(NH4)2(SO4)2・6H2O: 硫酸第一鉄(硫酸鉄(U)) FeSO4・7H2O 84g、 硫安(硫酸アンモニウム) (NH4)2SO4 40g を量り取り、純水を入れて80℃くらいに温め 約220mlの溶液とする。(100℃では結晶水を失う) 硫酸銅と同様に 50%硫酸を1〜2ml入れて 溶液を安定化する。 これを空冷して ろ過して、出てきた種結晶を集める。 ろ液を200ccトール・ビーカーに入れ、種結晶を吊るす。 もし、鉄酸化物が沈殿してくれば、普通の濾紙でろ過して除く。(コーヒー・フィルターでは素通りする。) (筆者は、初め 硫酸を入れなかったので、結晶核が多発し 多結晶になってしまった。)
  風解性があり、また 酸化による変色を防ぐため、無色のマニキュアを塗っておく。

  ● フェリシアン化カリウム(赤血塩) K3Fe(CN)6: 90gを量り取り、温純水に溶かして 200mlとする。 空冷、ろ過して、種結晶を集め、200mlのトール・ビーカーに入れたろ液に吊るして、同様に放置・管理する。 溶液の色は黒くて見えないので、時々引き上げて様子を確認する。
  ● フェロシアン化カリウム(黄血塩) K4Fe(CN)6・3H2O: 150gを量り取り、温純水に溶かして 300mlとする。 空冷、ろ過して、種結晶を集め、300mlのコニカル・ビーカーに入れたろ液に吊るして、同様に放置・管理する。 1か月くらいすると、液が”腐って”容器の内面に這い上がって粉状に覆うので、もしこれ以上成長させたいなら、最初から作り直した新液と入れ替える。



  

  ● 斜方硫黄 と 単斜硫黄: (換気注意)

  非水系では、硫黄(S8、S8 とは 8個の硫黄原子で環状のクラウン型分子)は、常温で二硫化炭素溶液から晶出させると 斜方硫黄(α硫黄; 96℃以下で安定)になる。(ベンゼン、トルエンには少量溶解)
  硫黄 S8(99.9%) 15gを、二硫化炭素 CS2(有毒) 50mlに溶かし、2本の太試験管に均等に入れ、二硫化炭素は揮発性が高いので ティッシュを丸めて栓にして、常温でゆっくり蒸発させる。 5日目頃から急に結晶ができて、8、9日目あたりで液が少し残っている状態で、結晶をろ紙上に取り出す。 (残念ながらせっかくできていた大きな結晶を取り出す時 割ってしまった。)
  シャーレで蒸発させると、平べったい小さな、しかし 形のわかる結晶が見られる。

  また、やっと溶けるくらいの低温で溶融した硫黄を漏斗に乗せたろ紙に流し込み、ある程度固まった時に開いて現われる 単斜硫黄(β硫黄(単斜)、γ硫黄(針状晶); 96〜120℃で安定)がある。 これらは常温にしばらく置くと斜方硫黄に戻る。
  250℃あたりを中心に 直鎖状の分子(Sn、n=50万個以上)となり粘性を増し、それ以上の温度から急冷するとゴム状硫黄となる。 ゴム状硫黄は通常は黒褐色で、高純度硫黄の場合黄色になる。 これも 常温でしばらく置くと斜方硫黄に戻る。

 
    


  § その他、水溶液からさらに透明度の高い、形の良い結晶を作る方法として、「密度拡散法」があります。 1か月くらいでミョウバン、硼砂、クエン酸などのきれいな透明結晶ができるそうです。 ただし、装置を作らなければならないので 一旦置いておくことにしました。




    § 機能性結晶の歴史:


  ロッシェル塩(酒石酸カリウムナトリウム、 KNaC4H4O6・4H2O)は、1921年に強誘電体であることが知られ、戦時中は 欧米、ソ連、日本でも大きな結晶が作られ、情報通信や潜水艦搭載のソナーの部品として活躍しました。 写真は高湿度の環境で、バットに入れたロッシェル塩の結晶を育成している職工さんたちの作業風景です。
  戦後は、クリスタルイヤホンやマイクロホンなどの圧電素子として盛んに用いられましたが、湿気に弱いので、次第に リン酸二水素カリウム(KDP)や チタン酸バリウムなどが、圧電素子やコンデンサーなどの材料として取って代わりました。
  また、時間を基準を作る水晶も、高圧下で熱水から合成され、ほとんどあらゆる装置の時間源(クロック)として用いられています。

  また、検波や増幅作用をになう部品として、鉱石、真空管から 半導体へと変わっていき、さらにそれが集積化され、ゲルマニウムやシリコン、金属間化合物などの、超高純度で欠陥のない 大きな単結晶を作る技術(ゾーンメルト法、チョクラルスキー法、気相成長法など)が発達していき、情報、通信、電力制御、民生などのあらゆる分野で大活躍する時代となりました。
  このように、20世紀後半に急成長した結晶作成技術が 世界の文明の根幹を握っているといっても過言でない状況になりました。
  (因みに、日本は、半導体製造技術の基礎部分を握って、世界のシェアの大部分を占めています。 → 電子54.磁場測定器 の下の§)


  ダニエル書は、このような 終末に近い時代の世界の様子について、預言しています。 情報化社会、インターネットの時代である今こそが、終末の時の一歩手前の時代であることを、警告として語っています。


    「ダニエルよ。 これらの言葉は、多くのものが行き来して動き回り知識が増加する、そのような終わりの時まで、書物として封じられる。」 (ダニエル12:4)






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